ネところがあるんです。こっちは、土台、せりふがわからない見物を芸でひっぱって行く覚悟でやっているんですから」
「それは見ていてわかりますよ」
と素子が、永年芝居を見ているものらしく同感した。
「左団次だって、よっぽどまじめに力を入れてやってますよ。その意味じゃ、ちょいと日本で見られないぐらいの面白さがある」
「文字どおり水をうったようだねえ、ソヴェトの人に面白いんだろうか。こっちの見物には女形《おやま》なんてずいぶんグロテスクにうつるわけなんだろうのに、反撥がないんだね。そこへ行くと映画にはお目こぼしというところがなくってね」
「そうでしょう? お目こぼしのないのが芸術の本来だって気がするんです。ふっと妙なこころもちがするっていうのもそこなんです。舞台でいっぱいに演《や》ってますね、そんなとき、ふいと、こんなに一生懸命にやっている芸にどこまで価値があるんだって気がするんです」
吉之助は、青年らしい語気に我からはにかむように、薄く顔をあからめた。
「たしかに歌舞伎は日本独特の演劇にはちがいないんですけれどね――忠臣蔵にしろ、自分でやりながらこの感情がきょうの私たちの感情じゃないって気が
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