黷ス。ほんとに保が多計代の|情熱の子《パッショネート・チャイルド》ならば、何かの不安から保のそばをはなれかねる気分が多計代になかったという方が、伸子にすれば納得しかねた。父の泰造も、三月のとき、保に自殺の計画をわすれさせ、生きさせるために何一つ強硬な努力を試みていない。――ほとんど、ずるずるに、こんどのことまで来ている。保がメロンの駆虫用ガスの効果をしきりに研究していたことについても何一つ勘を働らかせないで。――
去年の夏、相川良之介が死んだとき発表された遺書を、もちろん保も読んだだろう。その遺書の中に、生きるためだけに生きるみじめさ、と書かれた観念は、全く同じ内容ではないにしろ、保の日頃の考えかたと符合していた。あのとき、伸子はそのことを考えて不安だった。相川良之介の葬儀のかえり動坂へよったら、保が、涼しいからと云って土蔵の地下室を勉強部屋にしていた。そのことも、不吉感として迫った。その不吉感がつよいだけに却って伸子はこわくてそれを母にも素子にも云えなかった。きょうとなってみれば、予感にみたされていたのは一番自分だった。伸子は自分にさしつけられた事実としてそれを認めた。だのに、自分
前へ
次へ
全1745ページ中474ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング