sい刃もので胸をさかれる悲しさがあった。ドゾウのチカシツ。――
胸に手をやって痛いところを抑えずにいられないほど悲しさは鋭いのに、伸子の眼からは不思議にもう涙がでなかった。そのかわり、まるであたりの空気そのものが悲しみそのものであるかのように、ちょっと体を動かしても、首をまわしても、伸子は息のつけないような悲しみのいたさを感じるのだった。
足もとのドアがそっと開けられた。素子が入って来た。眼をあけている伸子をみると、
「めがさめた?」
素子が強いてふだんの調子をたもとうとしている言いかたでベッドに近づいて来た。
「大分眠ったから、もう大丈夫さ。――気分ましだろう?」
「ありがとう」
「ともかく電報をうっといたから……」
伸子の感情を刺戟しまいとして素子は事務的な方面からばかり話した。
「ぶこちゃんは帰らないということと、お悔《くや》みをうっといた」
「それでいいわ。ありがとう」
次の日、素子に扶けられて、伸子はアベードの時だけ食堂へ下りた。食後、テーブルについていた人々が、一人一人伸子に握手して悔みをのべた。ロシアの人としては小柄で、頭のはげているヴェルデル博士は、彼の真面目
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