ヘ果しなく静かである。
 そこへ、広間の方からヴェランダに向ってコトリ、コトリ、床に杖をついて来る音がした。元軍医の夫人ペラーゲア・ステパーノヴァがあらわれた。彼女は、心臓衰弱で、室内を歩くにも杖がいった。赤銅がかった髪を庇がみにして、どろんと大きい目、むくんだ顔色にいつも威脅的な不機嫌をあらわしている夫人は、灰色っぽい古軍服をきている良人に扶けられて、あいている揺椅子の一つにやっと重く大きい体をおさめた。
「ふ! わたしの心臓!」
 息をきらしながら、胸を抑えて頭をふった。一番近いところにいた老嬢エレーナが、ものを云わなければならなくなった。
「いかがです。また眠れませんでしたか?」
「――どこへ行ってもわたしに必要な空気が足りないんです」
「窓をあけてねると大分たすかりましょう」
 ペラーゲア・ステパーノヴァは、まるで侮辱でもされたように白眼に血管の浮いた眼を大きくした。
「わたしの心臓が滅茶滅茶になってから、十年ですよ。――できることなら壁さえあけて眠りとうござんすよ」
 暫くして、思いがけない質問がヴェランダのはずれにいる伸子たちに向けられた。
「日本にも、心臓のわるい人はどっ
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