日を思いおこさせ、新しい歴史にとって自分も無駄に生きたものではなかった誇りと、なお彼に期待されている力量の可能を自覚させているのではないだろうか。『装甲列車』は舞台と観客をひっくるめてうちふるわす不思議な震撼のうちに、英雄的な悲劇の幕をとじた。
十一時すぎのトゥウェルスカヤ通りには、宵のうちよりも結晶のこまかい粉雪が降りつづけている。劇場のはね[#「はね」に傍点]るのを目あてにして来てあぶれた辻待橇が一台、のろのろ、伸子たちの歩いて来る方向について来た。伸子は、足もとのあぶなっかしさよりも、寧《むし》ろはげしくゆり動かされている心の支えが欲しい心持から、茶色外套をきている素子の腕にすがった。
「そんなに寒いの?」
ぴったりよりそって歩いている伸子の体のかすかな顫《ふる》えに気がついて、素子が不安そうに訊いた。
「そうじゃないのよ、大丈夫!」
上気している頬に粉雪を快く感じながら、何となく顫えの止らないような芝居がえりのこの心持――伸子は、十六七のとき、上目黒のある富豪のもっている小劇場で、はじめてストリンドベリーの『伯爵令嬢ユリー』を観た晩のことを思い出した。それは、伸子がみた最
前へ
次へ
全1745ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング