曹フ人たちとわたしの国の人たちと、どっちが苦しい生活をしているんでしょうねえ。哀愁をこめたリン博士のその言葉は伸子の耳の底にのこっている。伸子は、そういうリン博士の言葉で、自分という者の運命が日本の見知らぬ数千万の人々の運命とかたく結ばれたその一部であることを知らされたのだった。けれども、伸子がリン博士に感じた尊敬や真摯さは、伸子が伸子でないものになりたいような刺戟を与えるものではなかった。リン博士のゆたかさ、伸子の貧弱さ、その間には非常に大きな差があった。けれども、その厳粛な差のなかにリン博士の本質は伸子の本質と通じるものであることが感じられた。
 アンナ・シーモヴァに伸子のひかれているこころもちは、惹きつけられる感情そのものが、もう伸子を伸子のそとへ押しだすものだった。リン博士と伸子との間に流れかよった共感というのとはちがった。アンナ・シーモヴァって何といいのだろう。そう思うとき伸子は、自分という意識から解き放されて、アンナ・シーモヴァという一人の女性に表現されているこのましい生活ぶりへの想像に惹きこまれるのだった。
 六月も終ろうとする晩で、伸子がよりかかっている窓のあたりは、人
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