ツの広間へ入って行った。そこは、壁に絹をはった本式の貴族の広間だった。楕円形の大テーブルが中央に置いてあって、その上にきちんと、ヴ・オ・ク・スの出版物が陳列されている。そこを通りぬけた小部屋でタイプライターがうたれている。
声をかけて、あけはなされているその室の入口に立ったとき、伸子はまた不思議な心持になった。若いきれいな女のひとがたった一人、そのバラ色で装飾された室の真中にフランス脚の茶テーブルを出して、その上でタイプライターをうっていた。なぜ、このひどく華奢《きゃしゃ》な、なめらかなこめかみに蒼みがかった金髪を波うたせている女のひとは、こんな室の真中でタイプライターをうっているのだろう。その若い女のひとのこのみが、そういう位置を彼女に選ばせているらしかった。伸子たちが、そのきれいな人とでは事務的にてきぱきとはすすまない話をしているところへ、外から、この室の責任者である中年の男のひとが戻って来た。淡い肉桂色のネクタイをして、手入れのよい鳶色の髪や白い額の上に、いまその下をとおって来た青葉のかげが映っていそうな風采だった。
モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]のブロンナヤ通
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