鰍ノいたとして、泰造はやっぱりこうして新聞をよこすだろうか。娘がモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]にいるということだけで、泰造はその新聞記事から普通でない衝動をうけたのだ。どう表現していいか泰造自身にもわからなかったのだろうけれども、赤インクのかぎ[#「かぎ」に傍点]は、泰造の受けた衝撃の感情の性質を語っていることが伸子を悲しくさせた。
去年の秋、伸子たちがソヴェトへ来るときめたとき、そして旅券のことについて動坂の家へ行ったとき、母の多計代は「ロ・シ・アへ?」と、ひとことひとこと、ひっぱって云って、いやな顔をした。半年近くたったこの間、伸子がそこまでよんで先がよめなくなった多計代の手紙には、「冷酷なあなたの心は、ロシアへ行ってから」とかかれていた。父の泰造は、旅券のことで助力をたのみに行ったときも、伸子がともかく自分の力で借金ができて、外国へも行くようになったことをよろこんで、行くさきについて意見は洩さなかった。その後の泰造の簡単なたよりにも、ロシアというものへの先入観や偏見はちっともあらわされていなかった。
ところが、こうして、日本にも世界のよその国と同じようにいつの間
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