フ家からは、伸子が東京あてのエハガキをかくよりも間遠に、和一郎がかいたり、寄せ書きしたりした音信が来た。相かわらずとりとめなく、どこへドライヴしたとかいう出来ごとばかりを知らせて。
メーデイの前後しばらくの間、伸子はちょくちょく父のペンでつけられた赤インクのかぎ[#「かぎ」に傍点]つきの新聞記事を思い出してこだわった。
泰造が、例によって一人がそこにいる朝の食堂のテーブルであの新聞を読み、無意識に、入歯のはいっている奥歯をかみ合せながら、しっぽのひろがった太く短い眉をひそめてすぐテーブルの上においてあるインクスタンドからペンを執り、せっかちな手つきで赤インクのかぎ[#「かぎ」に傍点]をかけたときの顔つきが、手にとるように伸子にわかった。泰造のその表情や、わるく刺戟的な赤インクのかぎ[#「かぎ」に傍点]をかけた新聞を送らせるようなやりかたのなかに、伸子は、これまで心づかなかった父と自分との心のへだたりを知った。
三月十五日に日本で共産党の人々が検挙されたという記事に、泰造は、どんなつもりでそんな、衝動的な赤インクのかぎ[#「かぎ」に傍点]をかけ、伸子へ送らせたのだろう。伸子が仮にパ
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