ヰeである男に課せられているアリメントの法律的な義務は存在するはずがない。
 伸子が、二木準作のコロンタイズム宣伝について憤懣する心の底には、そのとき云い表わされなかった微妙な女の思いがあった。伸子は佃とああいう風に結婚し、ああいう風にして離婚した。もう四年素子と二人の女暮しをして、伸子は、どういう男の愛人でもなかった。恋や結婚の問題は、伸子のいまの身に迫っていることではないようだった。そして、もし伸子に質ねる人があったら、伸子はやっぱり、いま結婚を考えていないと答えたであろう。その返辞は偽りでなかった。佃が悪い良人だったから伸子が一緒に暮せなかったのではなかった。佃は常識からみればいい良人であった。しかし伸子には佃のそのいい良人ぶりが苦しいのだった。平和で不自由のない家庭を自分たちだけの小ささで守ろうとすることに疑問のもてないいい良人ぶりが、伸子を窒息させたのだった。それ故、伸子がいま結婚を考えていない心には、佃とは別な誰か一人の男を見出していない、というよりも、伸子が経験した結婚とか家庭とかいうそのものの扱われかたに抵抗があるのだった。
 モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82
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