L子は、どこかしょんぼりとした恰好で、中央美術館のルネッサンス式の正面石段を一歩一歩おりて、通りへ出た。雪どけが終って、八分どおり道路が乾いたらモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]は急に喧しいところになった。電車の響、磨滅して丸いようになった角石でしきつめられている車道の上を、頻繁に荷馬車や辻馬車が堅い車輪を鳴らし、蹄鉄としき石との間から小さい火花を散らしながら通行する物音。伸子が来たころモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]は雪に物音の消されている白いモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]だった。それから町じゅうに雪どけ水のせせらぎが流れ、日光が躍り雨樋がむせび、陽気ではね[#「はね」に傍点]だらけでモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]は音楽的だった。こうして、道が乾くと乾燥しはじめた春の大気のなかでは、電車の音響、人声、すべてが灰色だの古びた桃色だの剥《は》げかかった黄色だのの建物の外壁にぶつかって反響した。
 モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ来て半年たったきょう伸子の心の中でも下地がむき出しにあらわされた。歩くに辛いその心の上を歩いてゆく
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