^面目にレンズを見つめて、シャッターが切られようとしているところであった。その肥った娘の赭ら顔の上にあるひなびたよろこびや緊張を伸子は同感して見物した。ソヴェトらしい素朴な並木道《ブリ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ール》風景と思ってみた。けれども、同時に伸子は素子にこんなことを云った。
「こういうところをみるとロシアって、やっぱりヨーロッパでは田舎なのねえ」
そして、連想のままに、
「ヨーロッパで、日本人を見わける法ってのがあるんだって。――知っている?」
「知らないよ」
「黄色くって、眼鏡をかけて、立派な写真器をもって歩いているのは日本人てきまっているんだって」
「なるほどねえ」
展覧会場の長椅子の上で、伸子が思い出したのは、この自分の会話だった。ゴーリキイの幼年時代や青年の頃一枚の写真さえもっていなかったということ。そしてあんなにゴーリキイが愛して、命の糧のようにさえ思っていた話し上手のお祖母さんの写真さえ、ただ一枚スナップものこされていないという現実は、伸子に自分のお喋りの軽薄さを苦々しくかえりみさせた。ロシアの貧しかった人々の痛ましい生活の荒々しさ。無視された存在。
前へ
次へ
全1745ページ中294ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング