^ガンローグというアゾフ海の近くのどこかの町で屋台《キオスク》商人として生活していた。と読んだことが思い出された。そうだとすれば、チェホフも、少年の頃ちょいちょい写真をとってもらったりするような生活の雰囲気はもっていなかったのだ。
それらのことに気がつくと、伸子はひとりでに腋《わき》の下がじっとりするような思いになった。
雪どけが終って春の光が溢れるようになると、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の並木道《ブリ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ール》やモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]大学の構内で、ときには繁華な通りでビルディングを背景に入れたりして、おたがいに写真をうつし合っているソヴェトの若い人たちを、どっさり見かけるようになった。つい二三日前、伸子と素子とがブリ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ールを散歩しているときだった。そこの菩提樹の下に古風な背景画を立て、三脚を立てた写真師が日本でなら日光や鎌倉などでやっているように店をはっていた。五十カペイキでうつすと書いた札が菩提樹の幹にはってあった。伸子たちが通りかかったとき丁度一人の若い断髪の女が、生
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