h寒靴のままはいれた。人々の足にあるのは働く人々がはいている粗末で岩乗なワーレンキだった。同じような群集にまじって、伸子はいれかわりに一番おそい上映を観た。その週は、性病についての文化映画と、国内戦時代のエピソードを扱った劇映画だった。
 アストージェンカの生活には、三重顎のクラウデも現れず、ポリニャークも遠くなった。伸子の心は次第に重心を沈め、心の足の裏がふみごたえある何ものかにふれはじめた感じだった。それは伸子に、ものを書きたい心持をおこさせはじめた。
 丁度そのころ、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の雪どけがはじまった。伸子の住んでいる建物の板囲いのなかにも、往来にも、並木道《ブリ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ール》の真中にも、雪解けで大小無数の水たまりが出来た。昼間、カンラカラララと雨樋をむせばしてとけ落ちている屋根の雪や往来の雪は、はじめのうちは夜になるとそのまままた凍った。柔かい青い月光が、そうやって日中に溶けては夜つるつるに凍る雪を幾晩か照し、やがて、もう夜になっても雪は凍らなくなって来た。そうなるとモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]じゅうは
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