w動物の生活』というお伽噺《とぎばなし》めいた本を伸子が買って来たことがあった。やさしそうなケンペルの文章は、言葉づかいがいかにも未来派出身の女詩人らしく、それがわかれば気がきいているのだろうが、伸子にはむずかしかった。
「ありゃ、たしかに気取ってるよ」
「――でも、わたしたちが、彼女の文章はむずかしいと云ったら、大変きげんがわるかったわねえ」
「そうそう、御亭主に何だか云いつけてたね」
それは半月ばかり前のことであった。伸子たち二人が秋山宇一のところにいたら、そこへ、シベリア風のきれいな馴鹿《となかい》の毛皮外套を着て、垂れの長い極地防寒帽をかぶったグットネルが入って来た。まだ二十三四歳のグットネルはメイエルホリドの演出助手の一人であった。秋山たちが国賓として日本を出発するすこし前にグットネルが日本訪問に来たとき、彼は、メイエルホリドの演出家として紹介された。演劇人でソヴェトから来たはじめての人であったため新劇関係の人々に大いに款待され、日本でその頃最も新しい芝居として現れていた表現派の舞台を、メイエルホリドの手法に通じる斬新なものという風に語られた。秋山宇一と内海厚とは、帰国する
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