ニに、どんな女としての心理があるかなどと、考えてないらしかった。
 一座の話題は、酒の話から芝居の評判に移って行った。
 大阪の人形芝居のすきな素子が、
「大阪へ行ったとき、人形芝居を観ましたか」
とポリニャークにきいた。
「観ました。あの人形芝居は面白かった」
 ポリニャークは、それを見たこともきいたこともない夫人とアレクサンドロフに説明してきかせた。
「舞台の上にまた小舞台があって、そこがオーケストラ席になっている。サミセンと唄とがそこで奏されて、人形が芝居をするんだ」
「外国の人形芝居は、あやつりも指使いの人形も、人の姿は観客からかくして演じるでしょう」
 素子は、ロシア語でそう云って、
「そうですね」
と日本語で秋山宇一に念を押した。
「そうです、こわいろ[#「こわいろ」に傍点]だけきかせてね」
「あなた気がつきましたか?」
 またロシア語にもどって素子が云った。
「日本の人形芝居は、タユー(太夫)とよばれる人形使いが、舞台へ人形と一緒に現れます。あやつられる人形とあやつる太夫とが全く一つリズムのなかにとけこんで、互が互の生き生きした一部分になります。あの面白さは、独創的です」

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