アにほほ笑んでいる。薄色の服をつけた優《や》さがたの彼女の雰囲気には、今夜のテーブルの用意もした主婦らしいほてりがちっとも感じられなかった。それかと云って、作家である良人と並んで、芸術家らしく活溌にたのしもうとしている風情もなかった。彼女はただ一人の若い女優である妻にすぎないように見えた。この家の主人であるポリニャークの好みによって、選ばれ、主婦としてこの家に収められているというだけの――
ポリニャーク夫婦の感じは、伸子が語学の稽古に通っているマリア・グレゴーリエヴナの生活雰囲気とまるでちがっていた。マリア・グレゴーリエヴナの二つの頬っぺたは、びっくりするような最低音でものをいう背の高いノヴァミルスキーの頬っぺたと同様に、厳冬のつよい外気にやけて赤くなって居り、丸っこい鼻のさきの光りかたも夫婦は互に似ていた。二人はそれぞれ二人で働き、二人でとった金を出しあわせて、赤ビロードのすれた家具のおいてある家での生活を営んでいる。
野生の生活力にみち、その体から溢れる文学上の才能をたのしんでいるポリニャークは、自分の快適をみださない限り、女優である細君が家庭でまで娘役をポーズしているというこ
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