オた、居られました」
 内海は、相変らず十九世紀のロシアの進歩的大学生とでもいうような感じの顔をうなずけた。
「吉見さんには話して来ましたがね。実はね、ポリニャークがぜひ今夜あなたがたお二人に来て頂きたいっていうんです」
 革命後作品を発表しはじめているボリス・ポリニャークは、ロシアプロレタリア作家同盟に属していて、活動中の作家だった。
「こんや?――急なのねえ」
「なに、急でもないんでしょう」
 そのとき、また下から登って来た人のために内海は手摺の方へ体をよけながら、すこし声を低めた。
「この間っから、たのまれていたことだったんでしょうがね」
 二三年前ポリニャークが日本へ来た時、無産派の芸術家として接待者の一人であった秋山宇一は、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ来てからも比較的しげしげ彼と交際があるらしかった。その間に、いつからか出ていた伸子たちをよぶという話を秋山宇一は、さしせまったきょうまで黙っていたというわけらしかった。伸子は、
「吉見さんはどうするって云っていました?」
ときいた。伸子としては、行っても、行かなくてもいい気持だった。ポリニャークは日本へも来たこ
前へ 次へ
全1745ページ中180ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング