o来てきただけ、その乱脈やすきだらけが、むかしの無邪気さを失って、家族のめいめいのてんでんばらばらな感情や、物質の浪費としてあらわれて来ている。伸子は数千キロもはなれているモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の、雪のつもった冬の夜の長椅子から、確信をもって断言することが出来た。伸子がこのホテルのテーブルの上で、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]人がみんなそれをつかっている紫インクで、エハガキや時には手紙でかいてやる音信は、先ず多計代に封をきられ、いあわせたものたちに一通りよまれ、それから、なくなるといけないからね、と例のテーブルの下の箱にしまわれていることを。カステラ箱にしまわれた伸子の手紙はなくならないかもしれないけれども、ほんのしばらくたてば動坂の人たちは、もうすっかりそれについて、何が書かれているかさえ忘れてしまっているのだ。動坂の人たちは伸子なしで充分自足しているのだから――。
 伸子がいろいろの感情をもって打ちかえして見ている動坂のよせ書きの三頁めのところで、保が数行かいていた。ほそく、ペンから力をぬいて綿密に粒をそろえたノートのような字は、保のぽってりした
前へ 次へ
全1745ページ中160ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング