Jにしやがるから、癪《しゃく》にさわるのさ。いつだってきまっているじゃないか、ホージャに、キタヤンキ。――日本人扱いをした奴が一人だっているかい」
「…………」
 キタヤンカ――(支那女)伸子は、その言葉をしずかにかみしめているうちに、この間、ホテル・メトロポリタンの薄暗い、がらんとした妙な室で会ったリン博士を思い出した。あのひとこそ、正銘の中国の女、キタヤンカであった。けれども、あのものごしの沈厚な、まなざしの美しいひとが、もの売をねぎっているわきからキタヤンカと、素子がからかわれたようなからかわれかたをしたことがあるだろうか。伸子からみると公平に云って素子には、何となしひとにからかいたい気持をおこさせるところがあるように思えた。
 素子は、タバコの灰をおとすときだけ灰皿のおいてある机のところへよるだけで、いかにも不愉快そうに室の内を歩きまわっている。段々おちついた伸子の心に、いきなりぶったあげく逃げ出した卑怯な二人の女のかっこうが、苦々しくまた滑稽に見えて来た。
「――あなたって、不思議ねえ」
 柔和になった伸子の声に、素子の視線がやわらいだ。
「どうしてさ」
「だって――あなたは
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