式のぬらりとした曲線で、花の蕊《ずい》が長くのびたように出来ている。おそらくフランス風を模倣してつくられたものだったろう。けれども、生粋にフランス風なひきしまった線は装飾のどこにも見当らなかった。あらゆる線の重さとその分厚さがロシア風で、この屋敷の豪奢《ごうしゃ》は、はっきり、ロシア化されたフランス趣味というものを語っているようだった。
対外文化連絡のための事務所として、この建物を選定したとき、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]のその関係の委員会の人々はみんなこの建物を美しいと思い、外国から来るものに、観られるねうちのあるものと思って選んだろう。でも、その人々は、この建物の華麗が、フランス風を模しながら、こんなにもずっしりしたロシア気質を溢らしているという点の意味ふかい面白さ、殆どユーモアに近い面白みを、予測しただろうか。
伸子は、一層興味を動かされて、ホールの左手にある一室に案内された。そこが応接室につかわれていて、もう数人の先客が、いくらか褪《あ》せた淡紅色のカーペットの上に自由にばらばらおかれている肱《ひじ》かけ椅子の上にかけていた。もとも、ここはやっぱり冬の客室に
前へ
次へ
全1745ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング