qは、いつもの皮肉な笑いかたをして伸子をみた。
「わたしは、見ない」
笑おうともしないで、遠いそっちを見つめながら伸子が答えた。
「――気味がわるい――それに変だわ。――レーニンは、死んでるから、うるさくないかもしれないけれど……」
「これだけの仕事をやっていながら、あんな子供だましみたいなこと、やめちまえばいいのさ。――これだからわるくちを云われるんだ」
二人は、支那門へ向う踏つけ道を行った。「サトコ」のオペラの舞台が見せるように、諸国からモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へと隊商たちが集った昔には、この辺に蒙古を横切ってやって来た粘りづよい支那商人のたむろ場所があったのだろうか。支那門のわきにも、いろんな露店が出ていた。こちらには食糧品が多かった。バケツに入れたトワローグ(クリームのしぼりかす)などまで売っている。素子と伸子とはそういう品々を見て歩き、素子は素子らしく、ホテル暮しでは買ってもしかたのない鶏一羽の価をきいたりした。そして、一人のリンゴ売りの前へ来かかった。年とったその男は、ものうげに小さい木の台へ腰をおろして、山形につみ上げたリンゴを売っていた。ちょっと
前へ
次へ
全1745ページ中135ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング