]をした。
「構成派の芝居みたいに、いやにどぎつかったり、しゃっちこばって凄《すご》んだりしていないのはいいけれど、あれじゃあ、気がききすぎている。理性的な、鮮明な舞台をねらっているのはわかりますがね、――あれじゃインテリくさいや」
黒びろうど[#「びろうど」に傍点]の大垂幕を二枚背景としてつかって、その前に工事場の足場を意味する大きい半円形の螺旋《らせん》の段々がこしらえてある。一段一段とそこをのぼってゆきながら、良人を殺された労働者の妻のアンネットが悲しみと憤りに燃えて仲間の港湾労働者たちに叫びかける大詰の場面は、ピスカトールの妻である女優の大きい身ぶりの線があんまり洗煉されて鋭くて、伸子は、ペイラシェーズのコンミューン戦士の墓についている女の浮彫像を思い出したほどだった。
「パリの観客ということを考えて、ああいう味をつよく出しているのかしら――象徴的《シムボリック》だったわね。プロレタリア・シムボリズムってあるものかしら」
「そんなもの、あるもんか」
すぐ素子が否定した。
「シムボリズムは、土台労働者階級のものじゃないでしょう。だから、インテリくさいって、いうのさ」
「でも革命の情熱が、赤旗にシンボライズされていて不自然じゃないわよ。ソヴェト同盟の『鎌と槌』だっても――」
芸術的なところがあるという性格でない蜂谷はだまって二人の女の話をきいていた。外国生活の多面さとして、映画や芝居もときどきは観ているというわけらしかった。
伸子と素子とがもう二三日でロンドンへ立つところだという話から、蜂谷は、そのカフェーのコバルトと黄色に塗られた椅子の上で厚い胸を張るようにして、
「僕もそろそろどっかへ動き出したくもあるなあ」
と云った。
「じゃ、ソヴェトへいらっしゃい!」
伸子は、こだまするように云って、あながち出まかせばかりではない眼色で蜂谷を見た。
「わたし、思うとおりを云ってもいいかしら」
「ああ、もちろんさ。――何です?」
「わたしは、ベルリンでお医者の会に出たときそう思ったし、あなたに会ってからも思うんだけれど――どうして、みなさん、ソヴェトへ行こうとしないんでしょう。経済をやるあなたがいつまでもフランスにばかりいるなんて、わからない。中国へ行って来ている人なら、なおのこと、ソヴェトへは行って見たいだろうと思うのに――」
それについて知らないものの大胆さで、伸子は、
「フランスに、本気で研究するような新しい問題があるのかしら」
とつぶやいた。
素子の顔に、面白そうな皮肉な輝きがうかんだ。
「そりゃ蜂谷さんたちは学者[#「学者」に傍点]なんだから、うっかりソヴェト同盟へなんか行けないさ」
学者というところに、あるアクセントをつけて素子は云った。
「――お勤め先の関係で?」
「そんなことじゃないさ――ねえ、そうでしょう?」
正体をかくしたまま、鋭いものをふくんで迫る素子の語調を、蜂谷は少し不愉快そうにかわした。
「行けないと、きまったもんでもないさ」
「そりゃそうでしょうがね――蜂谷さんは今でも、中共も意味があり、蒋介石にも役割があるっていう論法ですか」
そういう風に質問が展開したのは伸子に思いがけなかった。同様に蜂谷としても予想しなかったらしく、
「――いやによくおぼえているんだな」
てれたようだった。
「少し失礼な云いかたかもしれないが、あなたがた学者とか教授とかいう人たちは、思ったより、ほんとの知識欲ってものはうすいもんなんですね。外国へ来て見て、留学中と称する諸先生にあって、しみじみそう思うなあ。みんな、これまでの自分のもちものに、ちょいと何か無難な新知識をつけ足すだけで、本当に人生観が新しくなるとか、これまでの考えかたをすっかり変えなけりゃならないかもしれないような冒険は、こっそりさけている。みんなのソヴェトに対する態度でよくわかる――要するに影響されるのが、こわいんですね」
蜂谷は、つっこんでゆく素子の言葉を、だまって終りまできいている。そして素子が云い終ると、それが彼の癖の、伏目になってきいていた眼をあげて、ゆっくり考えを辿るように、
「吉見君のいう心理もたしかに、どっかにはあるだろうな」
浅黒い皮膚の下に、微かな赧らみがのぼった。
「しかし、少くとも僕はそれだけじゃないんだ。――どうもひとことに説明しにくいが――。これは、一つの例だがね、コミンテルンの第六回大会の決議では、国際情勢の特徴を帝国主義戦争とファシズムの危険においている。僕もそれは正しいと思う。ところがね、ここの共産党だのマルクシストって連中は、かんじんのフランス自体の帝国主義の実状やファシズムの実力については、案外|呑気《のんき》なんだな。僕は、去年からかなりいろんな人と話して見ているが、概してそうなんだ。フランス人のもって
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