「や」
「――そんな」
 伸子は、こじれている和一郎の感情におどろいた。
「まさか!」
「ねえ、伸ちゃん」
 多計代のいないところで、従姉としての伸子をよぶよびかたで、小枝は不安な身ごなしにあらわして云った。
「ほんとに、アンテルを引っこすとき、わたしたちだけ別になれるとお思いになる?」
「どうして? 別になれるような条件で見つけようとしているんじゃないの」
「もしそうできたら、どんなにいいでしょう」
 和一郎は、やっぱり家さがしのために動かなかった。一箇所、これも泰造が教えられたアパルトマンがあって、そこへは多計代も一緒に見に行った。最新式の建築ということで、コルビュジエのガラスを多くつかった様式とアメリカのライト式をくみ合わせたような建てかただった。家具も直接的でパイプ椅子がおいてあるアパルトマンの室の天井は、思いきり低くて、風通しもよくなさそうだった。
「おや、これじゃまるで帝国ホテルだ!」
 多計代のひとことが、泰造や伸子のうけた印象を率直にあらわした。内幸町の帝国ホテルの建てかたは、多計代の気に入っていず、泰造もすいていなかった。このアパルトマンの「最新式」は、要するに四階のところを五階にして、室数をふやしたための云いわけにすぎなかった。
 伸子は、素子とつれだって、パリから一時間ほど郊外電車にのってアンギャンまで貸別荘を見に行ったりした。
 貸別荘というのは、別荘の一部をかす、というわけで、つまりパンシオン式の食事つき貸室だった。家そのものは町の高みにあって、糸杉の生えた心地のいい庭園に面して露台のある広い室だった。別に、かりられる小室もあった。庭に面した広い室の露台に立つと、遠いむこうに湖の端がちらりと光って見えた。それは、そのおかげでその町が避暑地とされているアンギャンの湖であった。週末や、近づいている七月十四日祭の夜は、夜明け近くまで湖畔のパゴーラから音楽がひびき、踊る人々のさざめき、笑う声などが水の面をわたって、対岸の丘の中腹にあるその家の露台まできこえて来るのだろう。夏のパリの郊外らしい風情が想像された。
 しかし、それも現実には多計代向きと云えなかった。パンシオンの食事にあきて多計代はきっと日本食をほしがるだろうし、そのために市内へ出るにしても、ここではタクシーがなかった。タクシーのないことは、泰造もここでは暮せないことを意味した。
 あと二
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