驍ョらい、平気なのよ。すこしの間恥しいのを辛抱すれば、それでいいんですもの」
船で、小枝が夜の服に着かえてから、多計代の和服の帯をしめる。暑い船室でのその仕事は、せっかく身じまいした小枝に汗をかかせて、薄い、きれいなレースや何かの夜の服の背中まで汗をにじませることがある。和一郎は、そういう小枝を見ると、不機嫌になるのだった。
「和一郎さん、それは御亭主のエゴイズムというものよ」
伸子は、気のつまる話の末に、くつろぎたくて、
「そりゃ、小枝ちゃんみたいに、きれいな若い奥さんをもてば、汗をかかせている姿なんか見せたくないでしょうけれどね」
と、すこし笑った。
「小枝ちゃんの、いいところよ。そういういいところで、和一郎さん、もしかしたら、あなた小枝ちゃんの御亭主になれているのかもしれないのに」
しかし、和一郎は、むっとしている顔つきをゆるめず、白眼の光る視線で伸子をちらりと見た。
「僕は、そういう自分の気分で、小枝のことをいうんじゃないんだ。小枝だって、僕の気もちを、姉さんにそういう風に話すなんて変だ。僕は、おっかさんの、あの荷物がいやなんだ」
伸子の顔にも緊張があらわれた。和一郎は、保の分骨がはいっている錦のつつみものをさしているのだった。パリへついてからずっと、それは、いま二人とも出かけていないアンテルナシオナールの泰造と多計代の室の、奥に並んだ二つの寝台の間におかれている枕テーブルの上に飾られてあるのだった。
「僕たちにしろつや子にしろ、みんなおっかさんは気の毒だと思って、それぞれにやって来ているんだ。そうでも思わないんなら、ここまで来るもんか。それだのに、おっかさんときたら、ちょっと何か満足することがあると、そういうことは何でも彼でも、『彼』のおかげにするんだ。僕たちがやったことでもだよ。そして僕たちは、あらいざらいの気にくわないことの張本人にされる。生きてるものが、そんなに死んだものの犠牲にされるなんて、あることかい? そんなに『彼』がいいんなら、おっかさんは何だって、袋をもったりタクシーを止めたりすることだって『彼』にさせればいいんだ」
和一郎が、多計代の携帯品である錦のつつみをきらう原因は、ただ保の肉体についての思い出からばかりではないのだった。
「僕は、ホテルの女中でも、あれを何かと間違えてなくしちゃいでもしたら、かえっていいと思ってるくらいだ」
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