滑ロの船長は、シャンハイの市街見物に、制限を加えたらしい話だった。
それにつけても、小枝は、寄港地ごとに、上陸する、しない、でもめた四十日の船旅が思いかえされる風情で、
「ナポリのときばかりは、わたしもつくづくお父様がおかあいそうでたまらなかったわ」
楽しいはずの旅がみんなに辛かったことを惜しむように云った。腕をからめて歩いている伸子を自分の方へひきよせるようにして、つや子がささやいた。
「お父様、デッキの上からナポリの街の灯を見て泣いていらしたの」
「お父様、前のときは、イタリーへ行らしたでしょう。ですものなお更ねえ。ナポリって、ほんとにきれいそうなところだったのに」
その美しいナポリへ、印度洋の暑さで弱った多計代は上陸できなかった。多計代が船から動けないために、和一郎と小枝の上陸も、ごたついた。和一郎、小枝が、食卓仲間に誘われてやっと上陸し、やがて午後おそくなってつや子が同じ年ごろの少年少女と一緒に船医につれられて上陸した。わざわざミラノから案内のために出向いて来てくれた人があったのだけれども、多計代が動けないために泰造もとうとう船にのこる決心をしてしまったというのだった。
ひどくもんちゃく[#「もんちゃく」に傍点]したのが、父に気に入りのナポリだったということが、伸子を悲しくさせた。
「だってまさか、どこでもそんな風じゃなかったんでしょう」
「印度洋のはじまりまではずっとましだった。コロンボで仏牙寺見物のときなんか、僕はへばっていたのに、おっかさん、ひとりではりきって百マイル以上ドライヴしたりした」
「ナポリのときは、あれは特別だったのよ、お兄様」
小枝が半分は伸子にそのときの事情をきかせるように云った。
「ほら、あの日は午前中に佐伯さんのことがあったでしょう? お母様、たいへんだったんですもの」
船の上では、その前日、退屈まぎらしの仮装舞踊会が催された。そのとき酒井という若い夫人がボーイ・スカウトに仮装して好評だった。ナポリへ着く日の午前ちゅう、映画をとるからというので、多計代をこめた数人の夫人たちが下甲板に招待された。小枝もおともで行ってみると、酒井夫人がきのうのボーイ・スカウトの仮装で出て来ていて、その夫人を中心に、イギリスへゆくために乗船しているボーイ・スカウトたちをフィルムにおさめるのだった。多計代その他の夫人たちは、その見物にかりだされ
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