ケながら女に何か囁いていたその半礼装の日本の男は、あいての女の視線が急に好奇心でひきつれられた方角を追いかけて、ひょいと佐々の家族が囲んでいる円卓の方へ、酔いの出ているその顔を向けた。彼はすぐ顔をもどして、女に何か云い、女もほほえみをたたえたままじっと多計代の和服姿に注いでいた視線をそらした。伸子のかけているところからはすっかりその様子が見えた。
 多計代は、食慾をそこなう不快なものをさけるように、椅子の上で少し体をむきかわらした。
「けさのけさまで、あんなに奥さんのお産を心配しているようなことを云って、みんなの同情を買っておきながら――あれが、大任を負った軍人さんのすることだろうかね」
 困った表情で、泰造は、用のすんだ献立表をまた手にとって見るようにしながら、
「船でのつき合いは、船の上だけということにしておきなさい。そういうものだ」
「そりゃそうでしょうけれど」
 なお執拗に多計代はこだわった。
「ひとをふみつけるにも程がある――」
「おかあさまあ」
 いとわしそうに、悲しそうに、つや子が大粒のダイヤモンドで飾られている母の手をひっぱった。
 食堂につづいたテラスへ出てコーヒーをのみながら、多計代は、船旅の模様を知らない伸子あいてに、また大高の話題へもどった。ひまをもてあましているカトリ丸の一等船客たちのサロンで、飛行将校である大高が、自分の優越感をたのしみながら、愛国の情に感激した調子で、飛行機の秘密をさぐるためにイギリスへ派遣されてゆくことについて講演したりした雰囲気が、多計代の話ぶりから伸子にもまざまざと描かれた。
「どんな小さい秘密でも、知る機会があったら国のために協力してほしい、なんて云っておきながら。――あの様子を見せられちゃ、口車だとしか思えやしない」
 大高の上陸第一夜の放蕩についてそれほど不機嫌になって拘泥する多計代の心理を、伸子は単純に、いつもの母の正義派がはじまったとだけ理解した。
「ひとのことはひとにまかせておおきなさいよ、おかあさま」
 伸子は、淡白に云った。
「外国へ来て、ひとはどうせいろんなことをするんだもの。厚かましいやりかたにはちがいないけれど、いちいち、それを気にしていちゃ、御自分が愉快になるひまがなくなってしまう」
「伸ちゃんは、あいかわらずだ」
 まるで、一年半わかれていても、そういう伸子を見出すのを待って来たとでもいう
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