ノでもきる気がしない」
「そりゃそうさ。ぶこちゃんみたいなはいはい[#「はいはい」に傍点]人形がスーツきられるもんか、窮屈で――」
たしかにそれもそうだった。素子のすらりとした体つきから見れば、伸子はまるまっちくて、手脚が短かいのだから。伸子はこれまで素子と自分とが、一方はスーツずきで、一方はワンピースずきだというようなことについて、特別な注意を向けたことは一度もなかった。素子と自分とは皮膚の色がちがうように、体つきがちがうように、めいめいはめいめいのこのみで着ているとしか思ったことがなかった。こまかく云えば、伸子がそう思っていたということさえ、いくらか意識しすぎた表現になるくらいだった。ひとりでにそうなって来ていた。ところがつい二三日前、伸子たちはつづけざまに妙なものをみた。
十四
川瀬たちのグループが、伸子と素子をつれて行ったのは、ベルリンの繁華街から二つばかりの通りをそれた、とある淋しい町だった。リンデンの街路樹のしげみのかげに、ぼんやり青っぽい灯のついた一つのドアをあけて入った。内部は、こぢんまりしたカフェーだった。レコードが鳴っていて、幾組か踊っている。周囲の壁ぎわに、スタンドに照らされた小テーブルがおかれていて、そこへかけて、踊っている組を眺めているものもある。伸子たち四人は一つの小テーブルを囲んでかけたが、気がついてみると、その狭いカフェーで男というのは、川瀬や中館たちばかりだった。そのカフェーの中にいるのは、踊っている組も、壁ぎわのテーブルに腰かけて見ているのも、女ばかりだった。同じように断髪の頭だけれども、スーツを着てネクタイをたらした女と絹のワンピースを着た女とが組んで踊っていて、スーツとワンピース半々の数だった。
照明のはっきりしないカフェーのなかで、レコードの廻転度数をおとしたようなフォックストロットがもの憂げに鳴った。踊っている組でも、その動作にも顔色にも華やいだ興奮の雰囲気はなかった。
「なるほど、ここはかわってる」
素子が、しばらく店内を見まわしていたあげくに云った。
「みんな商売人ですか」
「どうなんだろう」
「こんなにしていて気が向けば、どっかへ行くってわけなんだろうか」
「そうなんだろう。――こういう連中は大抵コカイン中毒でひどいんだ。――大戦後のドイツにはこんなことがひどいんだ」
伸子は話をききなが
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