「ましょうよ。結局、自分たちの儲けのためにやる仕事なら、その人たちの間だけでやるがいいんだわ」
そう云ったとき、伸子はテーブルの下で、痛いほど靴のつまさきをふみつけられた。伸子はさとった。素子が合図をしたのだということを。気をつけて口をきけ、そう警告しているのだということを。
津山進治郎は、伸子のいうことをだまってきいていたが、やがて相手の話から一つも本質へ影響をうけないものの平静さで、
「あなたのような考えも、或は正しいかもしれんさ。しかし理想だ」
意外なようにおだやかな語調で云った。
「あるいは、現代の人類がまだそこまで進歩していないのかもしれない」
「そうは云えないと思います。だって、ソヴェトがあってよ。社会主義は、とにかく、もうはじめられているのよ。それだのに、世界じゅうは、一生懸命それを認めまいとしているのじゃないの、それはなぜなの?」
重い大柄な体のつくりのわりに額は低く、濃い生えぎわが一文字に眉へ迫っている津山進治郎の顔には、伸子の言葉でどういう表情の変化もあらわれなかった。彼は、おちついて、
「そりゃ、まだ社会主義ってものが一般法則になっていないからだ」
と云った。
「例外は、いつだってありますよ。しかし例外は一般法則ではないんです。そうでしょう? ロシアはああなっても、よそはよそで、まだ別の方法を信じているし、それで成りたってゆく条件をもっているんだ。だから、より普遍な法則の中で行われる生存競争には、その方法でもって勝たねばならんというわけですよ。ドイツはヨーロッパの中の『持たざる国』なんだから」
そして、伸子は津山進治郎から、ドイツ軍備の内容をきかされた。国際連盟は、ドイツの軍国主義を監視して国防軍十万ときめている。けれども、その十万人の陸軍の中に、出来るだけ旧ドイツ軍の将校たちを保有していて、この十万と、やっぱり旧軍人からなる警官隊十五万とに、連盟の規定を最大限にくぐりぬけた武装を与えている。そのほか自衛団、応急技術団、将校同盟団、いろいろの名目で旧い、軍隊組織を仮装させている。
「海軍だって、一万トン以上の軍艦はつくれないことになっているんだが、この頃ジュラルミンと云ってアルミニュームより軽くて丈夫な新発見の軽金属をつかうことをやりはじめているんです。ドイツじゃ商船だって、ちゃんと規格があるし、航空路だって無意味にこんにちだけ拡げた
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