ネ電報を佐々のうちあてにうってもらうことを素子にたのんだ。「コンゲツスエマデニタイイン。マルセイユニテアウ」

        十六

 朝からの思いもうけない亢奮で疲れ、伸子は長い午睡をした。そして、目がさめたとき、伸子はテーブルの青い薬箱の下から、もう一度電報をとり出して、読みかえした。雪崩《なだれ》がおちかかるように感じられた驚きと不安がすぎ、伸子たちとしての処置の第一段を一応きめたのちの感情でしずかに電報を読んでいると、伸子の心には午前中感じるゆとりのなかったいくつものことについて思われて来た。
 日本の中流の家庭で、一家五人のものが、どういう事情にせよ外国にいるその家族の一人に会いに出かけて来るということは、例のすくないことだった。あたりまえにはない佐々のうちのもののやりかただが、それをいきなり自分をさらいに来るためばかりのように警戒の心でだけうけとった自分を、伸子はわるかったと思いはじめた。伸子の病気が一つの大きいきっかけになっているにしろ、折角みんながそれだけの決心をして出かけるからには、父の泰造として二十年ぶりのロンドンも再び見る機会を期待しているだろうし、多計代にしろ、一度西洋を見たいという希望は随分昔からのものだった。視力が弱っていると言えば、多計代が今のうちに外国へ行ってみたく思うのは当然だとも思われた。保が死んで、多計代には夫だのほかの子供たちとはまったくちがった存在として神格化された「彼」というものができてしまっているらしかった。それは、一家のみんなにとって圧迫的でないわけはない。珍しいところへ、あれこれかかわっていられない時間や旅程でガタガタ旅行をし、様々のものを見たり聞いたりすることは、うちの空気をすっかり変えるためにいいかもしれない。ほこりの種であった保を失った多計代が、また別の話の種をもつようになり、それに興味をもてば、どんなにみんなほっとすることができるだろう。出発前に、云わば旅行のために結婚が促進されたらしい和一郎と小枝が、三月十四日といえばたったもう二週間しかないが、急に式をあげるようになったことも、伸子としてはやっぱりうちのものの身になって祝福すべきだと思った。
 泰造や多計代の世間の親としての立場とすれば、こんど長男の和一郎の結婚式こそ、はじめて子供を結婚させると言える場合なのだった。長女の伸子は、あんな騒動をして、親たち
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