ネんなの」
「――心配はいらないことさ」
ナターシャが去ると、伸子は、
「ね、なんなの」
とせきたてた。
「こういう電報が、けさ来た」
渡されたローマ綴りの日本語の電文をよんで、伸子は、
「まあ」
ほとんど、あっけにとられ、信じられないという風に素子を見あげた。そして、もう一ぺんたしかめるように一字一字をよんだ。「マダタイインセヌカ、ワイチローケツコン三カツ一四ヒ。イツカ五カツ二三ヒコウベハツ、七カツ一ヒマルセーユチヤク」まだ退院せぬか。それはすらりと伸子にのみこめた。和一郎結婚三月十四日も唐突ながらわかった。五月二十三日神戸発、七月一日にマルセーユに着というのもわかるけれども、一家というのは――。
「どういうんでしょう」
一家という言葉にあらわされている父と母、弟とその妻となるおそらくは小枝、妹のつや子という佐々一家の人々を、七月一日にマルセーユに着く顔ぶれとして想像することは、日頃の一家のくらしぶりを知っている伸子にとってあんまり予想外だった。伸子は、しばらく黙りこんで電報をながめていた。やがてうなるように、
「どういうつもりなんだろう」
とつぶやいた。多計代の健康がよくなくて、一日に何度も神経性の下痢がおこること、糖尿病から視力に障害のおこっていることなどを、保が亡くなってからの手紙には、絶えず訴えられていた。伸子は、多計代の外出のひとさわぎの情景を思い出した。海辺の家へ数日出かけるだけにさえ、どれだけの荷物と人手が入用だったろう。家のなかでさえ自分の枕、自分の洗面器がなくてはならない多計代が、ヨーロッパへ来る。――電報のローマ綴りの間から、伸子は佐々一家独特の混雑と亢奮とを、気圧計の針が全身で気圧の変化を示さずにいられないようにありありと感じとった。費用の点から言っても、伸子が知っている範囲では、佐々の家にとって一つの事件というに足りた。自家用の自動車をもっているにしろ、そして、多計代はいつもそれでばかり出歩いているにせよ、その自動車はガソリン消費のすくないイギリスのものであり、かつ、自動車輸入が無税であった期間に買われたものだった。佐々の家の経済は、日常些細なことには派手やからしいが、どういうまとまった額の支出にもたえるという深い実力をもっているものではなかった。きっと父は陶器を手ばなすのだろう。伸子はそう思った。佐々泰造は陶器に趣味があって、蒐集
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