ト来ている白と黒とのぶち猫の顔をよこへむけながら、伸子がいう。
「その猫、どうしてこう青いものがすきなんだろう」
「さあ。彼女にはリンゴがないからでしょう」
 新しい野菜のない冬の間じゅう、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の人たちは、ほんとにリンゴやミカンをよくたべる。伸子も毎日ミカンをかかさなかった。
 伸子は、いきなり話題をとばして、
「ナターシャ、ラブ・ファク(労働者科)はもうあと何年ですむの?」
ときいた。
「今二年めです。だから、あともう一年です」
「女の学生、何人ぐらい居て?」
「少ないんです。――たった九人」
 ナターシャは看護婦というよりも大学生らしい眼くばりになって云った。
「わたしたちのところでは、一般に云ってまだ婦人がおくれているんです。生産面に働いている勤労婦人の間でも、高い技術水準をもっている女はすくないんです。それにラブ・ファクは昼間働いてからですからね。学課だってかなり骨が折れるし、女はやり通せない場合もあるんです。家庭をもったり、赤坊がいたりすると」
「あなたはどうなの? 自信がある? その体で昼間働いて、夜勉強する、つらいことがあるでしょう?」
「ニーチェヴォ」
 ほんとに、何でもないという調子でナターシャは、むき出しの腕でちょいと顎をこすった。
「ラブ・ファクではほんとに勉強したいと思っているものだけが勉強しているんです。ただ、ときどき、眠いことったら! どうしたって目のあいてないことがあるんです。並んで順ぐり居睡りしているかっこうったら! オイ!」
 ナターシャはたまらなさそうにふき出した。
「でも、みんないい青年たちなんです。ラブ・ファクには、全国で五万人ぐらいの若者が勉強しています。ルナチャルスキーが云っていたでしょう、『ソヴェトにとって最も必要なのは今ラブ・ファクで困難にうちかちつつ学んでいる者たちだ』って」
 ナターシャは何でもない時間に、ふっと入って来ることがあった。
「かけてもいいですか」
「どうぞ」
 長椅子にかけて、ナターシャは前かけのポケットからリンゴをとり出し、いい音をたててそれを丸かじりし、五分ばかり休んで出て行く。
 ナターシャの勤務ぶりをつくづく眺めていて、伸子は心から、公然たる結婚、公然たる姙娠というものの本質がわかって来るように感じた。
 伸子が女としてこれまで知って来た社会ではどこでも
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