ヨ住むようになった。そして、木綿綾織の裏がついた綿入外套でない毛皮外套を初めて着て夫婦でお客に招かれてゆけるようになった。グーセフの細君の生活のよろこびは、ノヴォデビーチェの新開町そのものに溢れている新生活のよろこびだった。ルイバコフの細君は決して身につけていない飾りけなさで、また遠慮ぶかいルケアーノフの細君にはできないあけっぱなしの単純さで、保健婦グーセフは何と気もちよく彼女たちの生活の向上を伸子にまでつたえるだろう。一面から云えば、この部屋がたえがたくがらんとしているのだって、ソヴェトにおける急速な勤労者生活の向上の結果なのだと思うのだった。
毛皮外套をかかえてグーセフの細君が出て行ってしまうと、伸子はふたたび、緑色の灯かげが動かないと同じように動かない淋しさにとりまかれた。グーセフの細君には、彼女の下宿人がこんなに、たっぷり空気のある[#「たっぷり空気のある」に傍点]部屋にいて、どうしてそんなに淋しがる必要があるのか、しかも淋しがっていることをどうしてだまってこらえていなければならないのか、それらのことは全然想像もされていないのだった。そして、伸子自身にも、その暖く乾いた淋しさにそれほど苦しみながら、なぜ一日一日を耐えて見ようとして暮しているのか、わかってはいなかった。伸子は、素子が、一ヵ月前払いしているということに呪文をかけられていた。その期限が来るまでは、としらずしらず身動きを失っていて、しかもその状態を自分で心づいていないのだった。
九
その年の十二月三十一日の晩、伸子と素子とは大使館の年越しに招かれた。漁業関係の民間の人々などもよばれていて、伸子ははじめてその夜の客たちにまじって麻雀をした。伸子のわきに椅子をもって来てルールや手を教えてくれる財務官の指導で、伸子はゲームに優勝した。
「これだから、素人はこわいというのさ」
いつもきまった顔ぶれで麻雀をしているらしい大使館の人たちが、勝ったことにびっくりしている伸子をからかって笑った。
「佐々さん、白ばっくれるなんて罪なことだけはしないで下さいね」
「わたし、ほんとに今夜はじめてなのに――。ねえ」
伸子が上気した顔をふりむけて念をおすのを、素子はわざと、
「わたしはそんなこと知らないよ」
とはぐらかしてタバコをふかした。その夜中に、伸子たちは珍しい日本風の握り鮨《ずし》をたべた
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