轤゚、立ち上ってタバコに火をつけた。
「中学の男の子みたい? そうお? 具体的に経験されていないから却って、男と女のことっていうと、きまりきった形でいやにむき出しに頭の中で誇張されるのかしら……」
素子は、タバコをふかしながら、ネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]河に向って二つの大きい窓のひらいている夜の室内をあっちこっち歩いた。伸子のいうことから、何か自分への目がひらかれるところがあるらしい表情で。――考えながら歩きまわって、素子はやがて、
「もういい。ぶこ」
と、椅子のところへ立ちどまりながら云った。
「そう分析されちゃ、やりきれるもんか」
伸子は黙った。けれども、伸子はこれまでのいつのときよりもはっきりした輪廓で素子を理解できたように思った。素子の封鎖されている性のなかには、伸子が自分に感じるより醗酵力のつよい欲望があり、しかもその欲情の激しさと同じ程度のはげしさで男の性が反撥されている。いつか素子は、自分からその矛盾の輪を破るだろうか。伸子はそのときがみたいと思った。素子の上にそのときを見たいと思う心の底潮に、意識されないかすかな遠さで、自分の生活もそのときはちがった展開をするだろうという予感がきざしていることは心づかずに。――
二
レーニングラードから近郊列車で小一時間ばかり行ったところに、もとの離宮村があった。エカテリナ二世が、バルト海に臨んだ水の多い首都から、ひろびろとしたロシアの耕野の眺望を恋しがり、自然の野原と森の眺めをなつかしがったその好みに、いかにもあった地勢の土地だった。平らに遠く地平線がひらけて、ところどころに天然の深い森がある土地を更に人工の大公園で飾って、バロック風の離宮をこしらえた。
一九一七年の十月、ニコライ二世が退位してから、シベリアへ出発するまで暮したのも、そこの離宮であった。ツァールスコエ・セロー(皇帝村)とよばれていたその離宮村は、その後デーツコエ・セロー(子供の村)と改称され、格別そこに子供のための施設ができているわけではなかったが、レーニングラード近郊の遊園地になっていた。日曜ごとに、ズック靴をはいて運動シャツ姿の青年男女や少年少女の見学団がデーツコエ・セローの小さくて白い停車場から降りて、大公園のなかへぞろぞろと入って行った。エカテリナ二世の離宮もニコライ二世の離宮もいまはそのまま博物館
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