チた。同時に日本の大財閥で政党を支配し、日本の権力をにぎっている人の一人だった。その富豪と父の泰造とはイギリス時代からのつき合いで、友人の一種ではあったろうが、伸子たちをふくめる家族は、そのつき合いのなかに入れられていなかった。
伸子が十か十一ぐらいのときだった。泰造が何かの用で箱根へ行くことができて、伸子もつれられた。夏のことで、伸子ははじめて箱根というところへ父につれられてゆく珍しさに亢奮し、自分が着せられている真白なリネンの洋服に誇りを感じた。箱根へ行って、大きな宿屋で御飯をたべて、それから泰造が少女の伸子でも知っていたその富豪の名を云って、その別荘へよって行こうと云った。
伸子が父の泰造につれられて行ったその富豪の別荘は、伸子が少女小説の絵で見知っている城のようだった。大きな鉄の蝶番《ちょうつがい》をつけた玄関の扉があいて、入ったところは、二階まで天井がつつぬけになっているホールだった。高いところに手摺が見えて、そこから赤い美しい絨毯が垂れていた。一つの大きいドアの左右に日本の緋おどしの甲冑《かっちゅう》と、外国の鋼鉄の甲冑とが飾られていた。そのほかホールには壺や飾皿があった。それらの飾りものは、ホールについている窓の、緑にいくらか黄色のまじったようなステインド・グラスを透してさし込んで来る光線をうけて、どれもどっしりと生きているようだった。
少女の伸子は父とつれ立って目をみはりながらも、勝気な少女らしく、そのホールの絨毯の上を歩いた。自分が、よく似合うリネンの白い洋服をつけ、桃色のリボンで頭をまき、イギリス製のしゃれたサンダルをはいていることに伸子は満足していた。
伸子は、帰るまでにはきっとここの主人に会うものと思っていた。けれども父の泰造は伸子をつれて、執事の男と二つ三つの室をまわって見ただけだった。それきりで、また夏の日が土の上に照りつけている外へ出てしまったとき、伸子はあてがはずれ、辱しめられたような、がっかりしたいやな感じがした。あとで伸子に、主人が留守だから自分をつれて行ってくれたのだったということがわかった。
泰造はまた、財閥としてはその富豪と対立の立場にいて、同時に対立する政党を支配しているような人々とも同じような友人めいた交渉があった。全然政治的な興味も野心も持たない泰造の気質は、ひろい趣味をもっていて、或る意味では至極さっぱりし
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