タんだ自分のベッドに腰かけてその様子を見ていたり、ときには、上着をとって、ブラウスとスカート姿で、ころがっている素子にくっついて同じベッドにかけ、素子の蒐集の中から伸子に気に入るのをよりわけたりした。そんなとき、伸子は熱心に、たった一人の相手として、素子に、あれやこれやの野暮な疑問[#「野暮な疑問」に傍点]を溢らせるのだった。伸子とすれば素子だけが一番自然に話せる相手だった。少くとも素子は、伸子と同じモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の一年半のなかから来ていることだけは確実だったから。
 氷を当てて、素子はいい心持そうに熟睡していた。そっとしてバルコンのところに坐っていた伸子は、上体をひねって、眠っている素子を見た。素子は、おたふく風をひいた患者のように、頭の上に白い布の結びめを立てて、こっち向きに眠っている。熟睡している素子の顔つきはあどけなかった。軽く顎をだすようにして、氷嚢をくくりつけている白い布と純白のシーツの間から痛みがやわらいでほんのり赤みのさして来た目鼻だちをのぞかせて眠っている。それは、かたい眠り、と云われている深い眠りかただった。そんなにして眠っている素子をしげしげと眺めることは伸子に珍しかった。清潔に、無心に眠っているものを見ているときのやさしさで、伸子は何となしほほ笑んだ。
 そのほほ笑みは、しかし、段々本式の笑いにこみあげて来て、伸子は体をバルコンへ向け直しながら声をしのんで大笑いした。こんなにして眠っている素子が、メトロのステーションで「畜生!」と舌うちしたときの表情や「尻を撫でやがった!」とまるで自分に女の後つきがあることをそれで発見したように言った言いかたを思い出すと、伸子は滑稽でたまらなくなった。その滑稽さのなかには伸子の気をくつろがせるものがある。パリの物ずきな男が、素子のなかに女を感じて奇襲したやりかたは、げび[#「げび」に傍点]ているが、伸子はそこにいやらしさというよりむしろ諧謔的な、風のいたずらめいたものを感じた。素子が自分の女であることに衝撃《ショック》されたのは何とおかしくて、然し、自然なことだろう。
 素子が目をさましたときは、静かな日曜日の午後ももう夕方に近い時間だった。
「ぶこちゃん」
「どうした? すこしは、よくなった?」
 伸子は寝台へよって行って、とけてしまった氷嚢をどけながら、素子の鼻のあたまにちょ
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