フきけないのは、伸子も自分がわるかったと考えているからであった。きのうは、あれから帰って来て、伸子も起きていられなかった。体の下で揺れているような寝床の中で、伸子は自分への思いがけなさを鎮めかねた。どうしようとして伸子は、蜂谷の寝台のかけものの間へはいったろう。自分に、はっきり思い出されるのは、枕の上にある蜂谷の顔を見まもっているうちに、伸子の気持をやさしく、やさしくみたした不思議な明るさ、透明の感じだけだった。それは愛のこころもちに似ていた。伸子は、これまで一度も彼に対して、あれほど自分を忘れた状態になったことはない。
蜂谷は、伸子の動作の意味をとりちがえた。それは二人にとって、ばつのわるいことだった。けれども、伸子は、このことではむしろ自分がわるいと認めることができた。男であり、考えかたや感じかたの大部分が常識的である蜂谷に、伸子があのときそうであったような状態――全身一つの光ったものになって、肉体が昇華されてしまっているようなあんな状態が、かんちがえされたのは無理もない。だけれども、あれが蜂谷のかんちがえだけだったと云えるのだろうか。蜂谷は伸子より率直に、伸子を光りもののようにした欲望を、ありのままに解釈したのではなかったろうか。
自分へのおどろきとともに、伸子は自分自身のわからなさへ、わけ入った。人間のこころの不思議さ。あのとき、欲望を欲望として自覚していなかった伸子が、そういうものとして行動したことを、伸子はやっぱり自分に許すしかなかった。でも、あのタワーリシチ、という言葉。――考えれば考えるほど伸子を考えこませる言葉――伸子の欲望とともに自覚されない奥底に育っていて、あのとっさ[#「とっさ」に傍点]に、動かしがたく作用したこのひとこと。――
これらはどれも、みんな伸子自身にとって不意うちだった。だれをどうとがめるよりも、蜂谷と自分との間に起って、そのどちらをもはねとばした電撃のあとを、伸子はびっくりして見直しているのだった。
伸子は歩きながら、いつもより疲れの感じられる声で蜂谷に云った。
「わたしも、ごめんなさい」
「僕は、伸子さんがそんな風にいうのは、いやだ。伸子さんてひとは、僕なんぞからみると、おどろくほどヒューマニスティックなんだ。僕を心から可哀そうに思って、きみは、あんなにやさしくなっていたのに――僕が全く野卑だったんだ」
自分に対して
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