ェ、クラマールの夜が寒くなってからは、毎晩、白いナプキンできちんとくるんだゆたんぽ[#「ゆたんぽ」に傍点]を伸子の寝床の裾へ入れておいてくれた。
 あつい湯でさっぱりと洗った足さきに伸子はこころもちよくゆたんぽ[#「ゆたんぽ」に傍点]のあたたかみを感じている。伸子が部屋へかえって来るまでに、のぼせるような豆炭の火気をはきつくした煖炉は適度に部屋をあたためて、夜更けらしい余燼《よじん》を見せている。おだやかな夜の室内の光景だが、白地にほそいピンク縞丸形カラーのねまき[#「ねまき」に傍点]を着て起きている伸子の顔はけわしかった。寝台のかけものの上にのばしている手のところに、二つに裂かれた手紙がある。手紙はわりあいあつくて、原稿用紙が四五枚重なったままをまんなかから、さかれたときの紙の重りのずれをそのまま、そこにある。
 モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]とロンドン。モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]とパリ。素子と伸子とが別々に暮すようになってから二ヵ月あまりたつ。わりあいに筆まめな伸子は、気がむくと随分細かく長い手紙をモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ書いて来た。素子も一週に一通のわりぐらいでロンドンにいた伸子、パリへかえって来てからの伸子に、たよりをよこしているのだった。
 でも、今夜の手紙は、混乱した表情に口もとをゆがめ、白いブラウスの左方の肩をつきあげたような素子が、こわい眼つきで、伸子の前に迫って来るようだった。一ヵ月もひとに無駄な手紙をかかせるひとだということがやっとわかった。もうぶこがモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ帰って来ることなんかちっともあてにしていない。全く帰って来なくなったっていい。――きみというひとは、どっちみち、自分のしたいようにしかしない人なんだから、わたしがここからこんな風に云うのさえ、云わば滑稽なことだろうがね。
 ――一ヵ月も無駄な手紙をかかせた、と素子は云って来ているけれども、それはどういうことなのだろう。伸子は、自分が素子のよこしたどの手紙かに返事をしなかったことでもあったろうか。素子のどんな手紙やハガキに対しても、必ずこたえて来ていたという確信が伸子にある。佐々の家のものがモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]経由で先へ帰ってから、パリにのこった伸子の滞在は、クラマールへ移ったり
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