轣A一人で先へ出かけてしまったりして、そのことで蜂谷が伸子に何かの意味をさとらせようとするなら、伸子は、そんなおかしくすねたようなやりかた、絶対にわかってやらない。そう思った。彼は、じぶくりたいように、ひとりでじぶくればいいのだ。
停留場のところへ来てみると、そこで蜂谷が、十一月の夕風に吹かれて面白くもなさそうに立っているのを見出した。彼は伸子を見ると、むっつりした顔のまま、包みをうけとるために手をさしのばした。
「――どうして先へ来ておしまいになったの?」
「ここでおち合うことになっていたんじゃなかったのかな」
「あなたのところへ四時半ていう、お約束だったわ」
蜂谷良作は、
「――僕がおぼえちがいしていたかなあ」
と云いながら、なぜか、黒いソフトをぬいでかぶり直した。
伸子と蜂谷良作とは、途中、あんまり口をきく気分にならずに野沢義二の下宿へついた。
野沢義二の古びた茶色のひろい室、それはゆうべ伸子が見たままの様子だった。とりたててどこが片づけられてもいず、彼は、やっぱり片隅のバネのゆるんだようなダブル・ベッドの上におきかえっていて、そのありのままの様子が、クラマールからひっかかっていた伸子の気分をのびやかにした。
「ほんとにおかゆだけよ」
「結構ですとも。――久しぶりだなあ、日本のおかゆなんて」
「わたしは、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]で三ヵ月入院していて、癒《なお》りかけのとき、それは、それは、つめたい、そうめん[#「そうめん」に傍点]をたべてみたかったわ。それから、日本の海の、つよい潮のかおりね、波がさあっと来たとき匂う――あの匂いへ顔をつっこみたかった」
「そう云えば、日本の海辺ぐらい、潮のにおいがつよいところって、ほかにないんじゃないかな」
野沢の部屋には、入口と別の隅にもう一つドアがついていた。その外にうす暗い廊下があって水道栓とちょっとした流しがついていた。そこで伸子はボール箱からカロリン米を鍋にうつして洗って来た。そして野沢の大きいデスクのはじへアルコール・ランプをおいて鍋をかけた。玉子、果物が、紙袋のままそのわきに置かれている。鍋の番をする伸子は、デスクへ横向きの位置にかけていて、はなれたところに蜂谷と、寝台の上の野沢と、ゆったりした三角形の二つの点になって話している。
男二人は、ソヴェト同盟の五ヵ年計画について話してい
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