ヘ、わけるように、わけるようにした。伸子はそれを不思議に思いながら、結局自分がひとりでモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ帰ろうと思っている計画がたやすくなったとしか、考えなかった。けれども、多計代は伸子をパリにおいておいてモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の藤原威夫に会う計画だったのだ。それは何のためだろう――。
 明るい昼の雨にぬれて赤銅色にそまっている秋の梢を眺めながら、伸子は、指先のつめたくなるような思いに考えしずむのだった。自分がモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]でもパリでも、どんな政治的な団体にも連関をもっていないことは、何とよかったろう。さもなければ、パリで毎日数時間ずつ伸子と一緒に暮していた母親が、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ着くなり、日本の諜報者としての任務を帯びて駐在している藤原威夫のところへ自分だけ行って、午後じゅうそこに留まっていたなどということは、第三者として伸子がきいても単純に解決されにくい、おかしな動きかただった。多計代は多計代らしく考えまわして、泰造はたよりにならないと思い、これだけはわたしひとりで、と思いこんだことがあったのだろう。素子からの手紙で、思いがけないことをはじめて知った伸子は、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]で母親をそんな度はずれに行動させたひそかな動機は何なのだったのだろうと、考えこまずにいられないのだった。
 伸子はくりかえしてはじめから素子の手紙へ目をとおした。つや子にことづけてやったお土産袋を、素子はうけとっているのだろうか。半ペラの原稿紙五枚に、こまかくつまっている素子の手紙のどの行にも、伸子が自分で縫って金色のリボンでくちをしめたお土産ぶくろについては書かれていなかった。

        七

 四、五日たった日の午前も、もうおそい時間のことだった。日仏銀行の表口から伸子が蜂谷良作とつれだって人通りのはげしいカンボン街へ出て来た。
 伸子のハンド・バッグにはたったいま、九十九円七十五銭という小切手をフランにかえたばかりの現金がはいっている。マデレーヌの広場へ向う歩道のはずれに立って、自動車の流れをつっきろうとしているひとかたまりの男女にまじりこみながら、伸子は蜂谷良作に、
「おひるは、わたしが御馳走いたします」
と云った。
「でも、すこし風変りなの
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