ェら考えずにいられなかった。ウォール街の恐慌は、どうしておこったのだろう。そもそも恐慌とは? 十月二十九日のウォール街で一千万株投げ出されたという株とは何だろう。伸子は恐慌ということは、もとよりあらましは知っているつもりでいた。株についても。ジェネラル・エレクトリックが一九二九年最高四〇三だったのに十月二十九日には二五〇に下って低落三八%、スティール・トラスト二六一3/4が一八五1/2、クライスラー自動車一三五3/4が三九3/4で七一パーセント惨落した。これが株をもっている人々に損をさせる事実であることもわかる。「リュマニテ」は書いていた。「ヒルファーデングの仮面ははがれた」「『組織化[#「組織化」に傍点]された資本主義の計画的[#「計画的」に傍点]経済』は二百五十億ドルの損失によって、労働者・技師・勤人・中小企業者・農業家・数百万の小投資者の生活を破滅させつつある」と。
 このパニックで、真に破滅させられたのは小さい投資家たちとその家族――働いてためた金を株にかえた数百万のあたりまえのアメリカの人たちとその家族であり、億万長者のモルガン一家はおそろしい混乱を通じて益々富を集中しつつある。ここに血が引いてゆくような資本主義の非人間性があった。字として、恐慌や株やを知っていたはずの伸子の眼の中に、きつい火を点じさせ、全身にいきどおりを伴った探究欲を刺戟しずにいない社会生活のうめきがあるのだった。
 伸子は、ノートを早めに切りあげてもらった。そして、けさのニュースについて話しはじめたとき、まるで、日本語がわかりでもするように、台所と食堂との境のドアがあいて、ベルネのおばあさんが愛嬌よく入って来た。そして、蜂谷に、夕飯をみんなと一緒にたべて行くようにすすめた。
「ムシュウ・アチヤ、お引越しになっても、あなたがわたしたちの御親切な友達であることに変りはございませんよ」
「ありがとう、マダム。おことわりする理由をもちませんよ」
 ベルネの家の夕飯は七時だった。
「しまりやのお婆さんが招待するなんて、めずらしいな。何かあるんだろうか」
 食卓の用意がされる間、伸子と蜂谷とは家を出て、前の通りを畑の方へ散歩した。ベルネの家で客間がつかわれるのは一年のうちにいくたびだろう。閉ったドアの内部の様子はわからなかったが庭に面した鎧戸がしめられている客室のヴェランダの床には梨が並べられるき
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