ニじゃないのかしら」
「大体そういう意味だといってもいい。しかしこまかくいうとドイツ語では英語のエレメンタルというよりも、もっと複雑で有機的な内容なんだが……」
「あたりまえの言葉でノートさせていただけないかしら。どうせ経済学者になるんじゃないんですもの。たとえば、『資本主義社会の富は、集積された商品の形であらわれるから、一つ一つの商品は、その富のエレメントにあたる。故に』っていう工合で間違っていなければ、その方がわかりいいんだけれども――」
蜂谷は苦笑して、柔らかい自分の髪を撫で、椅子の上で脚をくみ直した。もし蜂谷がもっている本をそのまま読んでノートするのなら、それは二重の手間だ、と伸子は考えたのだった。じかに、その本を借りて読んで、解釈してもらえばいいのだから。――でも、そこまでいうのは蜂谷を侮辱するように思えた。
「あなたは、案外せっかちなんだな」
冷静な意志で、はねる馬をくつわで導いて行こうとしているように、蜂谷が云い出した。
「こういう厄介なものの勉強は、直感的な文学とちがってね、どこまでも理詰めにやって行くしかないんだ。ある区切りまで先ずノートして、それから細部の解釈に入るのが、普通のやりかたなんです、平凡だけれどもね。これから、使用価値とは、どういうものか、というような説明もはじまろうというわけだ」
伸子は、おとなしくなって、蜂谷の言葉をきいた。
「佐々さんの理解力はおどろくほど範囲がひろいけれども、こういう分野は、云ってみれば未開墾だから――しばらく辛棒してごらんなさい。あなたのようなひとには、やっぱり理詰めの分析に興味が湧くにちがいないんだ」
そういうわけで、第一日の四時――五時半のうちに、伸子は、使用価値とか交換価値とかいうものの本質について、混同しぼんやりしていた理解をいくらか整理させられたのであった。
第二日目は「そこで商品をその使用価値から離れてみるとき、残るところはただ労働生産物たる一性質のみである」からはじめられた。いろいろな労働の有用性だの具体的な形態だのから「すべてが等一なる人間労働、即ち抽象的人間労働に約元され」人間労働力の支出の凝結が価値である、ということを、伸子は、一歩さきはどうなっているのか見当のつかない嶮岨《けんそ》な山道をのぼって行くような困難さで、のみこもうとするのだった。
それにしても、と伸子はノートしな
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