髏L子を、わざとガキという表現で冗談まぎらしにいう泰造のこころもちが、伸子の心の底にまで徹った。
「だってお父様、志願してそうしたのよ、わたし」
 晴れ晴れした声でそう答えた伸子は、父の感傷を深めまいとしたのだった。
「ほんとにねえ。……折角、こうやってみんなで暮したのに――」
 多計代がナプキンをとりあげて瞼にあてた。
「お母様、もらい泣きしないでよ、ね」
 そう云ったのも、伸子とすれば、一座を元気づけ明るくしようとするためだった。しかし、結果は逆になり、多計代は、伸子がもらい泣きと云った言葉にこだわった。
「他人のマダム・ルセールでさえ、わたしの手に接吻して泣いたのに――伸ちゃんは、ちがったもんだよ、よくもよくも、もらい泣きだなんて云えたものだ」
「お母様、でも、お父様がさきだった」
 少女らしい几帳面さで云い出したつや子の膝を、つついて、伸子はだまらせた。
「そういうもんじゃありませんよ。伸子だって、われわれを機嫌よく立たせたいと思って、いろいろやっているんだ」
 いま、それを云い出すのが真実の思いなら、多計代はどうしてきょうになるまで、伸子にとってはわけのわからなかった用心ぶかさで、パリに残ってあとからモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ帰ろうとする伸子のプランと、自分たちだけでシベリア経由で帰るときめたプランとの間に、けじめをつけて来ただろう。むしろ情愛的に云われたもらい泣きという表現は、多計代につきもどされて伸子の心に帰ったとき、とげとなって伸子を刺した。多計代と伸子とは、そのこころもちのままペレールの家を出て北停車場へ行き、その心のまま、プラットフォームの上と下とで、うすぐらいガラス越しの顔を見合った。そして多計代はパリを去った。良人につれられて、というよりも良人と末娘とをひきつれて。

 その日の、午後七時に、磯崎須美子もリオン停車場から出発してマルセーユへ向った。
 空屋になったペレールの家へ、伸子は、蜂谷良作と野沢義二の三人づれで戻った。親たちがけさまで使っていた敷布類やテーブル・クローズなどが洗濯に出すために畳まれて、人気ない食堂のテーブルの上にきちんと置かれていた。マダム・ルセールは、もう帰ってしまっていない。
 伸子がこれから引越してゆくクラマールの下宿は、住居とは別に、かなり大きい洗濯屋をやっているのだそうだった。そちらへ帰る蜂
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