繧フ健康上、シベリア経由をすすめられて、佐々の方は、まだきまらないままである。
ホテルへ着いてみたら、須美子のノートがのこされていて伸子が留守だから、一足先にプランタンへ行っている、子供部に居ります、とある。思いがけない行きちがいで、伸子は、びっくりしながらカウンターの上の時計を見あげた。ここの時計はもう十時四十五分になっている。どうしてこんな時間になったろう。列車は十時発車ということで、発車と同時に伸子はリオン停車場前からタクシーにのったのに。途中に四十分かかったとは信じられない。しかし、伸子がおくれた証拠には、約束どおり十時半にここへ来た須美子のノートがのこされているのだ。
パリで子供を亡くし、つづいて良人の恭介に死なれ、二人の骨をつれて日本へ帰って行く須美子との約束をないがしろにしたような成行を、伸子はそのままにしておけなかった。
プランタンへかけつけて、二階の子供もの売場をさがして行くと、いいあんばいに須美子の一行が見つかった。須美子は、恭介が急に亡くなったときからいる中年の看護婦に、下の子供を抱いてもらって来ていた。いそいで陳列台の間を近づいてゆく伸子を認めると、須美子は手にとりあげていた白い子供ものを下において、
「ああよく!」
と云った。
「おいそがしいのに、ごめんなさい」
ブルターニュ生れらしい、実直な看護婦が、抱いている子供の体のかげから、
「こんにちは、マドモアゼル」
というのに答えながら、伸子は、少し息をはずませた声をおさえて、
「ごめんなさい、行きちがってしまって。両親がジェネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ立つのを送っていたもんだから……。でも列車は十時に出たはずなのに、どうしておくれたのかしら――」
「あなたに忙しい思いをおさせしてわるうございましたけれど、わたしは、うれしいわ、来て下すって――」
須美子は、伸子の手をとったまま、唇をひらかないほほえみを泛べた。恭介が亡くなってから、ほほえみらしいものを浮べた須美子の顔を伸子は、はじめて見た。
須美子は、そこで、看護婦の腕にだかれている子供のいまの小さい体に合うような、そして、いくらかあとまで使えるような形や布地の下着を注意ぶかくいくつか選び出した。それから別の陳列台のところで、歩けるようになったときのために可愛い白鞣の靴を一足買い、船のなかで使うために桃色の子供用毛布
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