んなに部屋さがしをした。だけれども、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]での部屋さがしは、ほんとにいそがしい生活と生活との間に見出そうとする空間の問題のようで、そこに住むのが男であろうと、女であろうと、第一に考えられるのは、そこが健康に適しているかいないかということだけだった。いまこのアトリエを見まわしている伸子の心に湧いたような空想をおこさせた場所は、どこにもなかった。それは、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の生活そのものが、沸騰し、充実した活動にみたされているためにそうなのだろうか。それとも、伸子が素子と一緒に暮していた、そのせいだろうか。
落葉のちっている古い歩道に、男の靴音と女靴の小さい踵《かかと》の音とをまじえて歩きながら、伸子は、
「なかなか住めるってところはないものなのね」
複雑にゆすられたこころもちを、室さがしという話の幅におさめて、蜂谷良作に云った。こういう風に室さがしをやりはじめて、伸子は、二人でさえあれば、どんなところにでも住めるのに、と思うことが多かった。二人でさえあれば、と云って、その二人のうちの自分でないもう一人は、伸子にとって現実のどこにいるのでもないのだった。
「室さがしなんて、大体こんな工合のものなんですよ」
蜂谷良作と伸子はセイヌ河の古本屋通りへ向ってゆっくり歩いた。
「たった二日歩いたぐらいで飽きたんじゃあ、室さがしは出来ない」
「飽きなんかしないけれど……」
つまりは、現在いるところがあるからだ、と伸子は思った。
伸子は、けんかしたあとも、夜はきちんとホテルへ帰って、そこで寝た。ペレールから伸子が歩いてホテルへ戻るのは大抵夜の十時か十一時で、マネージャーの親爺はその時刻に、帳場にいることもあり、いないこともありだった。いたにしても、伸子が正面のしゃれた模様入りのガラス扉をあけると、そこから入って来るのが伸子だということをとうに知ってでもいたように、決して入口に顔を向けず、帳簿つけのようなことをやっていた。伸子の荷物が往来にほっぽり出されることもなく、七階の屋根裏部屋を伸子のカギであけたとき、先ず目をやる枕の上の白い猿のおもちゃにも異状はなかった。
だからと云って、彼らが伸子を出て行かせようとしていることは同じだった。マネージャーの細君である非常に肥った女が、捲毛をたらした頬に愛想笑いを浮べて、
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