ォをとおってペレールへの横通りへ曲りながら、伸子は、だんだん腹だちがおさまるとともに、あのホテル全体に対するいやな気持がつのって来た。
 伸子が云いあらそっているとき、わざとゆっくりカウンターのわきを通りすぎながらきき耳をたてていた男女や、必要以上ゆっくり食堂に腰をおろしていた連中の顔の上には、自己満足があった。学生らしい身なりをしていて、ろくな交際もないらしく、一人で出入りしている若い女、ホテルに余分な一フランも儲けさせない女。そんなこんなで、マネージャーにいやがらせを云われている女。小綺麗なモンソー公園の近くに、その名にちなんだしゃれた唐草模様ガラス扉をもっている小ホテルのカウンターでくりひろげられたのは、バルザックの小説のような場面だった。
 伸子は、たかぶった自分をしずめるためにペレールの家の前を通りすぎて、ペレール広場まで行って、そこからもどって家へ入った。
 ペレールの食堂では、泰造と多計代のジェネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]行きについて、その小旅行につや子をつれて行くか、行かないかの相談最中だった。
「どうします? つや子」
 泰造らしく、末娘の意見をきいている。その調子のどこかに、重荷を感じている響があった。手荷物の多い多計代一人が道づれでも、税関その他での心労が、六十歳をこした泰造には相当こたえるらしかった。
「たった四五日のことだから、こんどは留守番しますか、姉さんにでもとまってもらって……」
 つや子にしても、またジェネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ行って、中途半端な自信なさで大人ばかりの客間から客間へひきまわされることは、気づまりらしかった。つや子は、
「お留守番する」
と答えた。
「伸ちゃん、泊ってもらえるんだろうね?」
「ええ……できると思うわ」
「おや、何だか御不承知らしいね」
 みんなにはだまっているが、けさのホテルでのことがあるから、伸子は、四五日こっちへとまるとしたら、と、ホテルの荷物がどうにかなってしまわないかしら、と思ったのだった。
「よくてよ、安心して行ってらっしゃい」
 何かおこれば、おこったときのことだと伸子は心をきめた。
「じゃあお父様、そうきまったんなら、切符をお願いいたしますよ」
 泰造は間もなく外出し、多計代は、ゆうべよく眠らなかったといって寝室へもどった。親たちの留守、姉とだけ暮すということ
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