Xに見えもすれば、きこえもする。エレヴェーターへの出入りも、一旦カウンターの横を通らずには出来なかったから、伸子は、そこでいわばさらしもの[#「さらしもの」に傍点]めいた立場だった。
 伸子は、たくみにおかれた自分のそういう位置を意識するよりもよりつよく、白眼のどろんとしたマネージャーのおしかぶせた態度に、反撥した。
「あなたは、おそろしく率直です」
 伸子は、ちっとも自分の声を低めないで云った。マネージャーの男は、伸子に向ってほとんど怒鳴っている、と云っていいぐらいの大声をだしているのだった。
「あなたのホテル経営法は、どういう性質のものだかわかりました。しかしね、わたしはホテルの室代としてきまった料金を払っています、一〇パーセントのティップを加えて。――わたしは豪奢な客ではなくても、あなたのホテルにとってちゃんとした客です」
「わたしどもは、もっとずっと多く、あの部屋から利益を得ることができるんだ」
 まるで、カウンターのまわりに動いている人々に、自分のうけている損害を訴えかけでもするように視線をおよがせながら、マネージャーは大仰にこめかみのところへ手をあてがった。
「あなたのような若い女のくせに、わたしに損をさせるもんじゃない!」
 これは途方もない、云いがかりの身ぶりだった。
「わたしに責任はありません。あなたが|食事つき下宿《パンシオン》と、入口にかき出しておかなかったのは、お気の毒です」
「別のところへ部屋を見つけなさい。もっとやすいところへ――やすい[#「やすい」に傍点]ところへ」
 フランス人に特有な両肩のすくめかたをして、男は伸子にわからないフランス語のあくたい[#「あくたい」に傍点]をついた。
「あなたが部屋をあけなければ、あなたの荷物を、道ばたへ放っぽり出すから!」
 伸子は腹だちを抑えられなくなった。
「あなたにそうする権利があると信じているなら、やってごらんなさい。――やって《ジャスト》、ごらんなさい《トライ・イット》! わたしどもは、その結果を見ましょう。フランスは法律のない国ですか?」
 やっと男はだまった。
「わたしの承知なしで、あなたは何一つすることは許されません、荷物にさわることも、室をひとに貸すことも――」
 おこりきった顔と足どりで、伸子はさっさとホテルの玄関を出た。戸外には、天気のいい十月の朝の、パリの往来がある。小公園のわ
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