ホいながら、蜂谷を見上げた。
「わたし、つい、ここまでいっぱいだもんだから」
 藍色と白のまじった変り編みの毛糸ブラウスを女学生らしく着こなしている伸子は、ふっくりした顎の下へ自分の手の甲をあてて見せた。
 伸子と蜂谷良作が話しているところは、モンソー公園の最も美しい場所とされている池のわきだった。岸に柳が長く垂れて、睡蓮の葉が浮んでいる池のおもてに、円柱の列が、白い影をおとしている。木洩れ日でぬくめられている石のベンチに、二人はかけていた。日本で云えば、はじ[#「はじ」に傍点]に似た高い樹の梢が金色にそまっていて、水にうつる影の中で大理石柱の白さや、そこに絡んでまだ紅葉には早いつた[#「つた」に傍点]の葉の青い繁りを、あざやかにひきたてている。
 伸子はパリへかえって来る早々、こんなにして、蜂谷と話し込むことがあろうと思っていなかった。パリで蜂谷にまた会うことがあるかないか、それさえ伸子は気にしていなかった。けれども、偶然こうして会って話していると、素子と一緒に暮していたら毎日なしくずしに彼女に話さずにいなかっただろうと思われるロンドンでの印象を、伸子はみんな蜂谷にきかせることになった。素子がモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ立ってから、伸子はほとんど隔日にロンドンだよりを書いていた。ここで蜂谷と話しているようなことは、その中で一応みんなかかれたわけなのだけれども、声に出して、機智くらべになってゆくようなけわしさなしにもういっぺんそれが話せることは、人なつこい伸子にとって、自然で心地よかった。
 それにしてもロンドンで会った人たちは、どうしてあんなに伸子を負かそうとするように話す人たちだったのだろう。世界のあらゆる出来ごとについて、イギリスの支配的な階級の常識に準じて判断している自分たちだけが、現代で最も正しい分別をもっている人間なのだ、という風に。――
 おのずと考えの流れが一つの方向に動いたように、蜂谷は、
「ロンドンに、いったいどんな連中がいるんだろうな」
と云った。しいて返事を求めないようなその云いかたには、進んでは訊きにくいところもあるが、訊いても見たいという蜂谷の気分が感じられた。
「木村市郎――御存じ?」
「ジェネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]にいたんじゃないんですか」
「あのかたは顧問だから、ジェネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7
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