ラた。
「そりゃそうでしょう、芝居がはねたのが何しろ十一時すぎだったんだから」
 サン・ミッシェルの大通りはまだ宵のくちの賑やかさで、カフェーの客も女づれが目立って入れかわり立ちかわりしている。
「よわったな」
 蜂谷は、こまった額に太い横じわを現した。
「クラマールへ行く電車が一時までなんだ」
「どこなんです? そのクラマールって」
「ヴェルサイユ門から四十分ばかりのところなんだけれども――よわったなあ」
 そのよわりかたは、郊外電車にのりそこなうかもしれないことよりも、よそで泊る用意なんか全くしていない蜂谷の財布のなかの問題のように、伸子には思えた。
「ポート・ド・ヴェルサイユなら、わたしたちのところからじきじゃないのかしら。こうしたらどう? タクシーでいそいで行って見ましょうよ。それで、間にあえばいいし、間に合わなければ又そのときのことで、さ」
「そうしよう!」
 三人はカフェーを出るなりタクシーをつかまえた。行くさきをいそいで言葉すくない三人をのせ、タクシーは、明るさとざわめきにみたされているサン・ミッシェルの大通から寂しいリュクサンブール公園の裏通へはいって、ヴォージラールの長い通りをひとすじにヴェルサイユ門まで走った。
 素子がタクシーに支払いをしている間に、蜂谷良作は小走りにかけて、そこの広場に一台とまっていた電車に近づいて行った。
「間にあったんだろうか」
「どうでしょう」
 あとからそっちへゆく伸子と素子とに向って、駄目、駄目と横に手をふって見せながら蜂谷良作はもどって来た。
「出ちゃったんですか」
「いま出ちゃったんだそうです――よわったな」
 ポート・ド・ヴェルサイユからクラマールの住居までの距離がどのくらいあるのか、具体的に知らない伸子と素子とは、駒沢まで帰る玉川電車が出てしまったあとの渋谷で困ったことのある自分たちの心もちに翻訳して、蜂谷の当惑を同情した。
「タクシーで行っちゃ駄目ですか」
「遠すぎてね。パリのタクシーは、市内はやすいが、一歩郊外へ出るとメーターが倍ずつまわるから、とてもやりきれたもんじゃない」
「そんなくらいなら、わたしたちのいるガリックへ来て泊った方がよっぽどやす上りだ。――そうしちゃどうです。どんな部屋だって一晩ぐらい、かまわないんでしょう?」
 三人は、こんどはゆっくりヴォージラールの通りを逆もどりしてホテル・ガリッ
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