「る。和一郎とすれば、今度の旅費の問題は、おそらくカトリ丸に乗ったときから心にあったことだろう。いずれ実際的に扱われなければならないことだし、泰造を通さないでは何一つ決着しようのない種類のことでもある。
伸子は、
「ねえお母様、こんやはお父様もいらっしゃるから丁度いいわ。そのことをすこし本気に御相談なさるといいわ」
と云った。
「お父様は、和一郎さんから直接には何もきいていらっしゃらないんだから。よく具体的にお話しになれば……」
伸子は台所に少しいて、それから浴室で体を洗い、帰り支度をした。
「じゃ、さようなら。あしたは午後来るけれど、何か御注文があること? 買いものがあったらして来ることよ」
露台に向って両親とつや子が半円形にかけている客室へ声をかけた。
「どうですね、多計代。伸子がああ云っているが――いるものはありませんか」
それに答えず、ちょっと黙っていた多計代は、
「伸ちゃん、帰るのは、少し待って貰おう」
思いがけなくかたい、命令的な調子だった。
「こっちへ来ておくれ」
そろそろと近よってゆく伸子の顔を、多計代は椅子の上からふり仰ぐように見た。
「伸ちゃん、こんやは一つ、お前からすっかりお父様にお話して貰おうじゃないか。――おおかた伸ちゃんには、みんなわかっているんだろうから」
「わたしにわかっているって――なにが?」
多計代から泰造へと視線をうつしながら、伸子は、あんまり意外でナア、ニ、オ? とひとこと、ひとことひっぱった。
「話しに出ていたのは、和一郎さんのことじゃなかったの?」
「だからさ、あなたから、何でも思っていることをみんなお父様に云って、思うとおりにして頂いたらいいだろう、って云っているんですよ」
「へんだわ、お母様ったら」
単衣の下に骨だって見える母の肩つきや、白粉がむらになっているひきつめ髪の額を眺めて、伸子は悲しい、いやな気になった。
「和一郎さんから話をおききになったのはお母様じゃないの。わたしじゃないのよ。おまけに、お金のことじゃありませんか。わたしが何を知っているとおっしゃるのかしら」
「そりゃそうだけれどね。わたしには、だれも、和一郎がこんど越したホテルを知らしてくれないじゃないか……」
そう云われて、伸子は自分もそれを知らされていないことに気がついた。
「そう云えば、誰も知らないんじゃないのかしら」
もし多計
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